future cinema 展

Written by kamochan February 4th, 2004

2003.12.12 – 2004.02.29 NTTインターコミュニケーションセンターにて開催された。

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……ここで展示される作品は、マルチプロジェクション型、ヴァーチャル・リアリティ・システムによる没入感、ネットワーク型、インタラクティヴ型、データベース型など、多岐の手法にわたっています。そしてそういった技術の上で展開される表現のいずれもが、「来るべき時代の映像表現に向けて」制作された、まさに映像表現の現在形の諸相であるといえるでしょう。そこに変革と混沌、そして可能性を見出し、過去-現在-未来に続いてゆく映像のあり方を予感するならば、何より私たちの日常の視点も変わってゆくに違いありません。……
(2003.12.12 – 2004.02.29 NTTインターコミュニケーションセンター)

冷たい空気、雲一つない青空と長い影。まさしく冬の一日です。今年の美術館巡りは、NTTインターコミュニケーションセンターから始まりました。電車で来れば地下から直接たどり着くことが出来るので、寒さに弱くても平気です。

このFuture Cinema展はドイツのZKMから巡回してきたものです。あらかじめ調べてみると、今回の展示は作品数が多く、期待が持てそうです。ICC内だけではなく、オペラシティの2Fやロビーにも作品があるので、行く途中に紀伊國屋書店のある2階を通って行くことにしました。
すると、エレベータホールに見えてくるのが赤い発光LEDのディスプレイ3台。ジム・キャンベル(Jim Campbell)の、”五番街の教会” と “運動/休息” です。ドット数が少なく単色なので粗い動画ですが、映像がジワリと変容する様は「動き」を強調させます。

いつものように入館手続きを済ませて、まずは会場MAPの通り、作品番号1から順に見始めることにしました。モーリス・ベナユン(Maurice Benayoun) の “So. So. So. 誰かが、どこかで、いつか” です。同じ時間の異なる場所での風景や情景をライブカメラを通してみるインターネット版と、3Dスコープによって360度の風景を色々覗いている人の視点が、他の来場者には同じものがスクリーンを通じてみられる作品です。ズームイン・ズームアウトも可能です。大きなスクリーンには、見た映像が重なっていきます。海岸ではトップレスの女性が居たりして目が奪われてしまうのですが、その視点は他の人にじっくり見られています。

ヤン=ハエ・チャン・へヴィ・インダストリーズ(Young-Hae Chang Heavy Industries) の作品群は、インパクトのあるメッセージをジャズとともに表現します。退廃的な”ORIENT”の日本語版は必見です。ここには他にも2つのディスプレイが置いてあり、様々な作品が見られます。ウェブならではの映像表現をそれぞれが模索しています。なかでも、submarine channel の “THE KILLER” や、Whitehouse animation inc. の “Kunstbar” が非常に面白かったです。

クリストファー・ヘイルス(Christopher Hales) の “一人用タッチスクリーン・シネマ” は、スクリーンにタッチしていくと、映画の内容がどんどん変化していくというものです。例えば、鳥や広場で演奏するバンドを消してみたり。見ている者が映像に影響を与えることで、演出・脚本との関係を再考するものです。

私がもっとも気に入った作品は、ジャン=ルイ・ポワシェ(Jean-Louis Boissier) “プチ・マニュアル・インタラクティヴ(le petit manuel interactif)” です。静謐な雰囲気のある真っ白いテーブルに投影された何気ない日常の出来事。赤・緑・青と白いコマがこれからのストーリーを示しています。テーブルに手をかざすことによって、「日常」の再生・巻き戻しが出来るインスタレーションです。机の奥に手を動かすとシーンが切り替わり、新しい「日常」を見ることが出来ます。手をかざすという行為でコントロールされる「日常」。単純なようで面白く、ついつい何度もやってしまいます。双方向性のある遊びを感じられる映像表現でした。

となりのブースで興味を引いたものとしては、ピーター・コーンウェル(Peter Cornwell) の “Metaplex” です。簡単に言えば仮想ライブラリで、3D空間の中を動き回り様々なメディアにアクセス出来るというものです。目新しさは無いものの、サラウンド効果やすべての動画を動かす、その処理速度に感心しました。一時期VRMLも流行りかけましたが…。コンピュータが進化しているといえばそれまでですが…。

少し歩いて、隣のギャラリーでは、まず入ったところのフロアに投影されている大きなスクリーンのものが、シェリー・エシュカー+ポール・カイザー(Shelley Eshkar and Paul Kaiser) の “Pedestrian”。お天気カメラから見ているような町並みを俯瞰し、リアルなCGの人が歩いていく様子を見ているだけでも楽しいです。この人々はモーション・キャプチャされて動きを付けられ、群衆シミュレーションプログラムによって、彼らは自分たちで動いている/動かされているのです。

キー局でも昔ちょっと流行ったザッピング形式の映画、エイヤ=リーサ・アッティラ(Eija-Liisa Ahtila) “慰めの機会(consolation service)” はおすすめです。左右のスクリーンで違う視点から同じ物語が展開されていきます。フィンランド人の夫婦が離婚するストーリーで、映像にもダウナーな雰囲気を漂わせています。微妙に視点がずれているので、映画的ともドキュメンタリー的とも取れるのですが、ストーリーが自体が不思議な感覚の映画です。上映時間は30分あります。

全ての作品はとても書ききれないのですが、それぞれが近未来の映像表現を模索し、新しい映像表現を提案する展示でした。これからの映像表現とは、恐らく個人に由来し依存してくるものなのでしょう。絵画やモノクロームの写真から始まり、マトリックスのようなCG/SFXまで発展・進化してきたヴィジュアル・エフェクトも、さらなる進化の道を外れて行かないと思うのですが、これからは個人の体験・体感(experience)が表現出来る何らかの装置やコンテンツが人気を博していくと思います。何らかの装置と言っても、体を拘束するようなものではなく、小さなものになるでしょう。

そのように進化していくのであれば、一人一台と言われるまで普及し、小型のコンピュータとも言える携帯電話が新しい映像体験をさせてくれるものとして有力でしょう。メガネのような、目の前に直接映像を映し出すような極小軽量モニタや、カメラ付きの携帯電話がGPSナビになったり、TVを受信するだけではなく、映し出した物体に関連する情報を表示したり出来るようにもなるでしょう。カメラ付き携帯電話が、個人の映像体験を送信し共有することを実現しているので、私たちは新しい映像体験をある意味既に獲得していると言えるでしょう。このように、近未来は映像表現より映像体験が少し足を速めて進化していくと思います。ちょっと本題からはずれていますね。

今回の展示はとても作品数が多く、時間に余裕を持って見に行かれることをおすすめします。十分に満足できる展示でした。

 

  • Photo: kamochan

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