……日本、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、オセアニアなど様々な地域出身の14名の参加アーティストによるバラエティーあふれる表現を通して、アートの多様性を考察するとともに、地域を超えた同時代的なメッセージを読みとっていきます。様々な物語を紡ぐアートを、小説のように「読み」、映画や演劇のように「観る」楽しさを、展覧会の中で体験していただきたいと思います。……
(2005.03.29 – 2005.06.19 森美術館/ストーリーテラーズ展)
早くも今年の折り返しの月。artscapeで興味を感じさせる展示をチェックすること二ヶ月、なにやら面白そうな展示を発見し、まだ未踏峰の美術館へ行くことにしました。それは日本の新時代はここで作られていると言わんばかりの都会中の都会、六本木ヒルズ最上階は森美術館にレッツゴーです。いかにも都会らしく22:00までオープンしてます。
六本木ヒルズは、高台の途中に建てられたというせいもあってか地上部分はかなり立体的になっています。ヒルズの案内図がわかりにくいこと…やっと美術館への受付にたどり着きました。チケットは美術館展示とTOKYO CITY VIEWと名付けられた展望室も合わせてみることが出来るようになっています、ここでチケットを買って最上階までエレベータでノンストップ。思ったほどスピードは速くないように思えましたが、わざとそういう風に出来ているのかもしれません。
既に20時を回っていましたが、かなりお客さんがいました。展望室や美術展を見る順番は自由ですが、最初はやはり展示!というわけでもう1階分エスカレータを昇って展示室となります。ちなみにエスカレータを昇ったすぐ脇にクロークがあります。スタイリッシュに作られているせいか、美術館という重厚なイメージは無く、生活感の無いおしゃれなリビングのような感じです。
入り口に各展示のリーフレットがありました。日本語版と英語版の両方が用意されていました。順路的に最初は「秘すれば花/東アジアの現代美術展(the elegant of silence: contemporary art from east asia)」で、タイトルの通り、中国や韓国のアーティストの作品を特集している展示です。入ってすぐ大型のインスタレーションが目を惹きます。象形文字である「鳥」という字が本当の鳥に飛び立つイメージを制作したソン・ジョンウンの作品です。しかし、この作品、足下にプラスチックのコップが置いてあるので、見えづらく蹴飛ばしてしまう人も多いかもしれません…。
リン・シュウミンの作品 “催眠No.1” は、部屋の天井にベッドやルームライトなどが貼り付けられているもので、靴を脱いで天井/部屋の上からを眺められるようになっています。ライティングがされていて、自然と目が天井を向くように出来ている綺麗な空間なのですが、その部屋の外側には、魚が泳ぐ映像とみんなが部屋の中で天井を向いている映像が合成され、アジアテイストが漂う好インスタレーションでした。
そして、エンタテインメント性が高いと思ったソン・ドンの作品は、その名の通り「食べる山水画」。一見何の変哲もない山水画は実はすべて食材で作られていて、見ているとあちこちから箸が突き出されて無くなっていくものです。出口近辺に展示してある、伊庭靖子(Yasuko Iba)の油絵…は油絵に見えないほどのリアリティのある絵画です。これは必見です。
ここまででもボリュームがあるものでしたが、美術館の後半が私が目当てに見に来た展示、「ストーリーテラーズ~アートが紡ぐ物語展(the world is a stage, stories behind pictures)」となっています。
入口入ってすぐの映像作品は、テリーザ・ハバートとアレクサンダー・ビルヒラー(Teresa Hubbard / Alexander Birchler)の “single wide” です。意味ありげな物語は実はエンドレス。いつまでも終わりの来ない恐怖を示しているのでしょうか。これと対比した作品は隣の部屋の、小谷元彦(motohiko odani)の “ジャッカル” です。こちらは二枚のスクリーンがあって、左は小屋と流れゆく一日を映し、右にはジャッカルが円を描いて歩いている…全く何も変化しない一日が繰り返し過ぎてゆくものです。これもまた、ある意味恐怖でしょうか。
いくつかの展示を眺めて、続く次の部屋には、どこかで聞いたような…。あ、思い出しました。NTT/ICCで見ました、”Consolation Service(慰めの儀式)” のエイヤ=リーサ・アハティラ(Eija-Liisa Ahtila)の作品群がありました。今回は時間が無くて見られなかったのですが、時間のある方には是非おすすめです。今回は “Me/We; Okay; Gray” の3部作を見ました。こちらは90秒の作品で、こちらは男女の性癖の違いや核家族のすれ違いなどを浮き彫りにするものです。”Okay” が面白いです。
この展示、後から振り返ると後半部分が特に面白かったと思います。アンネ・オロフソン(Anneé Olofsson)の “God Bless the Absentees” は絨毯の模様と同じ柄の服を着た人の写真です。このアイデアと驚きと皮膚に伝わる気味悪さが良く伝わります。マーク・ウォリンジャー(Mark Wallinger)の “Threshold to the Kingdom” は荘厳な音楽で重い空気を感じる、意味ありげなスローモーションの映像ですが、よく見ると普通の人々が空港の入国ゲートをくぐる日常の1シーンです。つまり我々の「日常のこと」も簡単に「ドラマになりえる」という事を暗示しているのでしょう。
一番良かったのは、南アフリカの作家、ウィリアム・ケントリッジ(William Kentridge)の、”Tide Table” です。作者のバックグラウンドには深いものがありますが、木炭画のアニメーションで暖かみを感じます。ストーリーは、人生まさに「潮見表」。浮く時もあれば沈む時もある。映像にぴったり合った音楽がまた泣かせます。9分程度の作品なので時間が無くてもこれだけは必見です。
今回の2つの展示は、タイトル通りに受け取って見に行くと、なかなかそのテーマ通りに収まりきらないような気がするのですが、同じようなテイストで作品を集め、気に入った作品のアーティストをより深く知るというのには大変意味のある展示だったように思えます。そう言う意味でも、現代美術入門編という感じで見やすかったと思います。ただし美術館の場所柄、だいたいのお客さんは、展望室半分、展示半分という感は否めませんので、静かに作品を見たい方は午前中がオススメかと思います。今回初めて訪れた森美術館には、これからも興味をそそる企画を期待しています。
#さすがにごく最近作られた美術館だけあって、展示コース内に休憩所やトイレも数カ所あってゆっくり見るのに最適です。展望室の方に広いカフェがありますが、いったん出たら再入場不可なので残念。難点は、模写はともかくとして、メモも取れないというところでしょうか…。