……彼が用いる素材は、一貫して牛乳・花粉・米(種子)・蜜蝋など、自然界において個体の死をより大きな生命の連鎖へとつなぐリンクともいうべき物質であり、そこには、大地(石)をも含めて、動物と植物、生物と無生物の違いすら超えた生と死の大きな連環への透徹したまなざしや思索が潜んでいるでしょう。……
(2003.1.18 – 3.9 東京国立近代美術館 本館 ヴォルフガング・ライプ展)
こちらは、ドイツ工作連盟展と同時開催されている、本館1Fのヴォルフガング・ライプ(Wolfgang Laib)展です。もともと、ドイツ工作連盟展をメインに見に行ったので、こちらは「ふーん、こういうのもやってるのか」くらいの感じで見に行ったのですが、見てビックリです。ほんとビックリしました。思わず、ドイツ工作連盟展の、気に入った芸術家の名前をもう少しで忘れるくらいでした。
すべて真っ白な広い空間に、それぞれのインスタレーションが展開されています。タンポポの花粉で出来た5つの山。大理石の表面にうっすらとミルクが漂っているもの。マツの花粉が一面に敷かれているもの。などなど、すべての素材が自然からのものです。
特に、花粉がうっすらと敷かれている “Pollen from Dandelion” などの花粉シリーズは、目の前に花畑が展開されているかの如く、とても儚く圧倒的です。「5つの未踏峰」と名付けられた作品は、来場者の歩く風でも崩壊しそうな、危うげだけれども、凛とした小さな黄色の山が、空間を支配する見事な作品と思えます。とはいえ、ライプの狙いはそこにあるわけではなく、生への供物であると語っています。
大理石の上に、うっすらと牛乳が引いてある “milkstone” はとても間近で見られるインスタレーションです。ここにあった展示のたいていのものはすべて、ともすれば作品に触れられてしまいそうな距離のものばかりでしたが、その分だけ、作品の緊張感が良く伝わってきました。
「生と死」、「可能と不可能」、「到達と未到達」。やはりこのように相反するキーワード群、言葉にすると簡単で、儚げに思えるけれども、簡単にはそれらの本質に到達することは出来ない、ある意味神聖なる物のように感じられました。
美術館を出て、皇居の風景を目の前に取り戻すと、真っ白な展示空間と、それに対比するコントラストの強いインスタレーション群が見事に印象づけられる展示でした。東京は「色」がない?